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前橋地方裁判所高崎支部 昭和34年(わ)127号 判決

被告人 端春太郎

明四五・五・三〇生 雑品行商

主文

被告人を懲役一年に処する。

未決勾留日数中六十日を右の本刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人は昭和三十二年五月頃静岡県刑務所を出所後千葉県、埼玉県、群馬県等各地を転々し同三十四年四月末頃より群馬県群馬郡倉賀野町所在の木賃宿に宿泊し、その頃よりゴム紐、歯ブラシ、樟脳等の行商をなし居りたるものであるが、金銭に窮したところから右の如き行商品たる樟脳(一個十五円位相当)を行商名義にかこつけ金員を喝取せんことを企て、昭和三十四年六月二十二日右倉賀野町の雑貨店において一個十五円の芳香脳(樟脳)五個を購入しこれを持つて同年同月同日午後三時三十分ごろ、藤岡市藤岡三百八十番地料理店「三芳」こと伊藤ヨシエ(当時三十五才)方店舖に赴むき、同店舖内において同女の顔をにらみつけながら前記の如き原価十五円相当の芳香脳一個を差し出し「俺は体の具合が悪くて医者通いをしているんだがこれを買つてくれ、要らないなら金をくれ、一銭足りなくても汽車には乗れないんだからな」という趣旨の言辞をくり返し申し向けて、若し同女がこの要求に応じないときは何等かの危害をでも加えるかもしれないかの如き気勢乃至態度を示して同女を脅迫し畏怖させたが、同女が十円硬貨一個を差し出すにとどまつたため、金員喝取の目的をとげず、

第二、右日時、右同所において、右の如く、右伊藤ヨシエが右十円の硬貨一個を差し出すにとどまつたため、被告人は同女に対し「人を馬鹿にしている」と申し向けて、憤激した余勢をかり、やにわに同女の左上膊部を右手で掴み、更に同女の右肩を被告人の左手で強くとらえた上これを押さえつけ、因つてその際同女の左上膊部に安静加療約三日間を要する皮下血腫の傷害を負わせ、

第三、同日午後三時四十五分ごろ同市藤岡六百六番地映画館「藤盛座」表入口の入場券改札所において同映画館従業員水井京子(当時十七才)に対し同映画館の支配人や事務員等が当時、右同館に不在であるか否かを確かめ右同女以外には同館の従業員が当時館内に不在であることを知るや、同女に対し「姉ちやん、俺は堅気なんだ。預けてある子供に会いに行く金がないから三百円貸してくれ」という趣旨の言辞等を申し向け、同女をにらみつけながら当時被告人が着用していたワイシヤツ、下着等を胸部附近までまくりあげて、女の生首が匕首をくわえている図柄の入墨をした被告人の腹部の肌を故意に同女に示し同女が被告人の金員提供方の要求に応じないときは暗に何等かの危害を加えかねないかの如き気勢乃至態度を示して同女を脅迫して畏怖させたが、たまたま同所にきあわせた右藤盛座の支配人の妻師京子および藤盛座映写技士長尾島康男が右の形勢を察知して警察官に連絡するに至つたため金員喝取の目的をとげなかつた、

ものである。

(累犯前科)

被告人は、

(一)  昭和二十九年十二月二日富山地方裁判所魚津支部において恐喝罪により懲役六月(ただし三年間執行猶予および保護観察)に、

(二)  同三十一年九月十三日静岡地方裁判所吉原支部において詐欺罪により懲役四月に、

各処せられ、右各裁判はいずれも当時確定し、右(二)の刑の執行中、右(一)の刑の執行猶予が取消され、当時右各刑の執行を受け終つたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一、同第三の恐喝未遂の所為は各刑法第二百四十九条第一項第二百五十条に、判示第二の傷害の所為は同法第二百四条罰金等臨時措置法第二条第三条にそれぞれ該当するところ、判示第二の傷害の罪については所定刑中、懲役刑を選択し更に被告人には前示(一)(二)の累犯の前科があるので判示第一同第二、同第三の各罪の刑について刑法第五十六条第一項第五十七条により累犯の加重をなし以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条第十条第十四条により最も重い判示第二の傷害罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲において被告人を懲役一年に処し、同法第二十一条を適用して未決勾留日数中六十日を右の本刑に算入する。なお訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第百八十一条第一項但書を適用してその全部を被告人に負担させない。

(量刑についての判断)

本件各証拠を綜合して考察するに被告人の犯行態様は行商其の他等にかこつけ金員を喝取せんとするものであることは判示認定の通りであつて被告人の犯行前後の具体的情況乃至情状を検討するに、かかる犯行は平穏なる一般庶民生活に脅威を及ぼすこと少なからず、被害は軽微なるも反覆累行性を具有していることが伺がわれる、以上の如き観点よりするに本件に対する検察官の科刑意見(懲役六月)はやや軽きに失するものと思料する。

以上によつて主文の通り判決する。

(裁判官 藤本孝夫)

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